コンシェルジュからのプレゼント

その日は実に二週間ぶりのログインだった。



かつてフレンドからは「はぐれメタルよりも遭遇率低い」と揶揄された私。そろそろメタルキングに昇格かな、と自嘲する勢いだが、とにもかくにも二週間ぶりのログイン。

色々とやりたいことがたまっている。来たるバージョン3に備えてクエストも進めたい。欲しい装備を揃えるために金策もしたい。久しく行ってないピラミッドも荒らしたい。長いこと会ってないフレンドにも会いたい。オッパイ、揉みたい。

あれもこれもとある選択肢が、かえってぺけぴーの身動きを取れなくする。やりたいことが多すぎて、逆説的に何をすればいいのか分からない状態。形而上の鎖に雁字搦めになった私は、何をしたわけでも無く溜まった疲労感を拭うべく、一先ず我が家へと帰ることにした。

「おかえりなさいませ、御主人様」

そこにはイコプがいた。二週間空けていたというにもかかわらず、部屋の中は埃一つない清潔を保っていた。私がいない間も決して手を抜かず、隅々まで掃除をしていたであろうことが窺える。彼を雇い入れてから、早いものでもう半年以上になるだろうか。我が家の自慢のコンシェルジュ。


彼は大きなプレゼントボックスを取り出した。表情は満面の笑み。

ふと彼が、コンシェルジュ業務の合間に日夜編み物をしていた姿を思い出す。他愛ない趣味です、なんて言ってはいたけれど。

(フ~、ただいま)

(おかえりなさいませ、御主人様)

(今日も冷えるね、流石に裸は辛いや。ああ、寒い寒い)

(おいたわしや、風邪などお召しになられませぬよう、ご自愛ください)

(はは、心配性だなイコプは )

あの冬の日、他愛もないやり取り。思えばイコプが編み物を始めたのは、そのときからではなかったか。

「つまらないもので、心苦しいのですが」

そう言って、少し申し訳なさそうな顔をするイコプ。季節は代わり、耳をすませば春の足音が聞こえてきている。私がずっと家を空けていた所為で、渡す機会を逸してしまったんだね。すまない。

「開けてもいいかな」

恭しく頷くイコプ。リボンを丁寧に解き、箱を開けると、そこには───

一振りのムチが入っていた。

「これで、私めを…打ってください…!」

凄まじい密度で編まれたソレは、ドラゴンガイアの尻尾を想起させるほどの隆々とした靱性を備えていた。名だたる職人たちの手掛けたものにもまるで引けを取らない一流の逸品。元が毛糸であることを誰が信じられるだろうか。

試しに軽く振ってみる。ヒュパッ。空気が裂ける。ズズン。数メートル先にあるマーブル製のテーブルが二つに分かれ倒れた。ゴクリ。生唾を飲み込む音。イコプの双眸が期待で滲む。

「よろしい。服を脱ぎなさい」

「はっ!」

言うが早いか、ネクタイを解き、燕尾服を脱ぎ捨て、生まれたままの姿となったイコプ。凡てを受け入れる、そんな静かな覚悟を全身に纏わせているのが分かり、ぺけぴーのムチを握る手に思わず力が入る。

「ソォレ!」 スパーン! 「ヒギィ!」
「アラヨット!」 スパーン! 「ビャアアア!」
「モイッチョ!」 スパーン! 「ンウウウウウ!」

しなるムチ、イコプの肉体が赤いラインで彩られていく!恍惚とした表情!嗚呼、イコプはこの瞬間を待っていたのだ!来る日も来る日も、主の帰りを待っていたのだ!ムチの音!イコプの嬌声!

(待たせてすまなかった、イコプ…!)

気付けばぺけぴーは、泣いていた!泣きながら笑い、ムチを振っていた!気付けばイコプは、笑っていた!笑いながら泣き、全身にムチを浴びていた!

「イコプ!どうだ!?」

「はっ!まだまだで御座います!」

スパーン!スパーン!スパーン!スパーン!スパーン!スパーン!スパーン!スパーン!

衝撃の余波が室内を蹂躙していく!タンス、ベッド、骨董品、全てを薙ぎながら、ぺけぴーはイコプを打ち続ける!

スパーン!スパーン!スパーン!スパーン!スパーン!スパーン!スパーン!スパーン!

「イコプ!おれのムチをお前が受ける!そう、我らは二人で一人!おれが撞木でお前が梵鐘!おれたちこそがアンドロギュノス!」

「神は七日で世界を作りたもうた!ヒギィ!ならばこそ私たち!ビャアア!この一晩で世界を!ブウウウ!作り上げて見せましょうぞ!ンギモッチイイ!」

痛みは快感に代わり、快感は更なる痛みを呼び込む!ペンローズの階段めいて回り続けるエネルギーは次第に膨らんでいき、一撃一撃の威力が加速度的に増大!それに正比例して高まり続ける快感は、やがてイコプを遥かなるユートピアへと導いていく!そして───

「フォッサマグナ!!!──!!───。───」



押し並べて物事には終わりが来るものである。肩で息をするぺけぴーの傍ら、そこには既に事切れて物言わぬ肉塊と化したイコプが横たわっていた。安らかな表情。これでよかったのか。ぺけぴーの表情は晴れない。覆水盆に返らず。もう、イコプは戻ってこないのだ。

其れでも、否応なしに世界は回り続ける。時間は残酷なまでに非可逆だ。歩みを止めてしまった者の分まで、僕らは歩き続けなければならない。


新たなる出会い。新たなる物語。

おわり。
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