蘇生~魂~

ザオラルをテーマにした、人を選びまくるショートショート集その参。



【魂】

「魂の存在を、君は信じるかね」

ギーコギーコギーコ。

「ヒトをはじめとする生物には魂が宿っている。例え肉体が滅んでも魂は滅びず、時を経てまた新たな肉体に宿る。輪廻転生と呼ばれる思想だ」

ギーコギーコギーコ。

「イヌ、ネコ、サル。動物にも魂が存在する、と考える者は多いな」

ギーコギーコギーコ。

「では虫はどうだろう。一寸の虫にも五分の魂、なんて諺があるくらいだから、やはり魂はあるのではないか」

ギーコギーコギーコ。

「プラナリアという生き物を知っているか。こいつは非常に優れた再生能力を持っていて、例えば十に分割したとする。すると、それぞれが再生して、やがて十体のプラナリアになるのだが、こいつに魂があるとすると、その魂まで十分割されるのか、あるいは残りの九体に新たな魂が発生するのか。実に興味深い生き物だとは思わないか」

ギーコギーコギーコ。

「ミドリムシやゾウリムシ、ミカヅキモ。単細胞生物と呼ばれる彼らにも魂はあるのだろうか。それらに魂があるとすると、人間の細胞にもあると考えていいのではないか。とすると、人間は約六十兆個の細胞で構成されていると言うが、一人に一つの魂ではなく、六十兆の魂が宿っていることになるのだろうか」

ギーコギーコギーコ。

「細胞の魂を認めるとすると、ウイルスはどうだろうか。あれが生物なのか非生物なのかは見解が分かれるところだが」

ギーコギーコギーコ。

「九十九神を聞いたことがあるか。付喪神とも言うな。長い年月を経て、物に魂が宿るという。生物と非生物を峻別する必要は無いのかもしれない」

ギーコギーコギーコ。

「物質の最小単位は素粒子だ。電子や陽子、光子といったものがそれだ。物質に魂が宿るなら、素粒子にも魂が宿ると考えるのが妥当ではないか。とある国では古来より『森羅万象には八百万の神が宿る』というアニミズムな観念が存在しているが、それはつまりこの事を直感で理解していたのではないだろうか。とすると、人間一人に六十兆個の魂どころではなくなってくるな。いや、人間だけではない。動物も、虫も、物質も。この世界すべてが、言い換えれば魂の集合体だと言えるのではないか」

ギーコギーコギーコ。

「ふう。さて、実験を始めよう。先にプラナリアの話をしたのを覚えているか。今君はそれと同じで、十の肉塊に分割されているな。これからそれぞれに蘇生呪文をかける。バラバラになった肉体に蘇生呪文をかけた場合、それらがひとつに戻るわけではなく、失われた器官を超高速再生したうえで、そこに魂を呼び戻す呪文である、ということがこれまでの研究で分かっている。つまり君は、これから十人の君になるわけだ。そのとき、魂はどうなるのか。一人にだけ宿り、残りの九体はただの肉人形となるのか。あるいはそれぞれにまったく別の魂が宿るのか。あるいは十人に同じ性質の魂が宿るのか。実に興味深いと思わないか」

狂気の賢者メリルクラウは、同時に十のザオラルを唱えた。バラバラになった魔法使いパースナの肉塊がそれぞれに蘇生をはじめ、やがて十のパースナになった。

「さあ…教えてくれ。魂とは、何なのかを…!」

メリルクラウの瞳が鈍色に輝く。自身の知識欲を満たす為には何事も厭わない、人の姿をした怪物。

十人のパースナは暫く呆然と自失していたが、やがて呪文の詠唱を始めた。

「イオナズン」「イオナズン」「イオナズン」「イオナズン」「イオナズン」
「イオナズン」「イオナズン」「イオナズン」「イオナズン」「イオナズン」

極大爆裂呪文の十重奏(デカテット)。メリルクラウの研究室はそこにいた十一人共々、跡形もなく消し飛んだ。

おわり。
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